山でのご縁/金峰山

山でのご縁/金峰山

誰も信じてくれないかもしれないが、私は、けっこう人見知りだ。
ギャラリーのオーナーという仕事柄、来客に対してはにこやかに接することができるが、それはホームの時であって、アウェーの時の私は心のシャッターを閉じていることが多い。もちろんこれは自慢でもなんでもなく、どちらかというと私の欠点だ。今までの社会人経験と心の訓練の成果で、仕事中はうまく立ち回ることができるが、持って生まれた性格は変えられない。“三つ子の魂百まで”とはよく言ったもので、よそにいる時の私は借りてきた猫のようにおとなしい。(はず。)

山小屋では、知らない人が話しかけてくることが多いが、私はそれが結構苦手だ。特に中高年が苦手だ。(中高年の皆さまごめんなさい)おじさんは、私がもう話しかけないでくれオーラを出しているのに、気づかないのか気にしないのか、ひたすら一方的に話を続ける人が多い。それも大体、自分の山行自慢のオンパレードなので閉口する。おばさんは、「〇〇山は私に登れるかしら」「〇〇コースはどれくらいきついか」など、そんなん知らんわ、と言いたくなるような質問ばかりふってくる人が多い。私とおばさんとは体力も経験も違うのだから、答えようがないではないか。

あっ、ここまで書いて思ったけど私、かなり冷たい人間だ。まあしょうがない。これも私なのだから。

時々一緒に登っている山友達は、その場にいる人に自然に話しかけて、いつも楽しく会話している。私もそれに便乗させてもらっているが、こういうことが自然とできるのって本当にすごいと思う。

そういうわけで、私は基本的に一人での山小屋泊の時はほとんどしゃべらないことが多いのだが、10月末に登った金峰山・瑞牆山の時だけ珍しく違った。山頂の金峰山小屋にこの日泊まったのは、私を入れて5人。登山天気指数はCで、小屋番さんも「こんな日によくみんな来たね」と苦笑いしていた。晴れは晴れなのだが、ものすごい強風だったのだ。

5人のうち、単独は3人。後の二人はカップルだった。金峰山小屋は規模が大きくないので、ソロで来る人をよく見かける。夕食後、自然と囲炉裏を囲んでみんなで談笑となった。この日はたまたまほぼ全員が犬を飼っていた、もしくは飼っていて、犬トークで盛り上がった。

翌朝。ご来光を見るべく、ありったけの防寒着を着こみ、ヘッドライトを付けて、全員金峰山の山頂をめざした。山頂は小屋からは20分くらいだ。昼間は大したことないが、まだ暗い朝晩は岩が凍り付いているので注意して登る。
やがて山頂に到着し、それぞれ思い思いの岩にもたれかかり、日の出を待つ。
金峰山のシンボル、五丈岩が赤く染まっていく。
見事な雲海に、ちょこんと富士山だけが突き出ていて、それも同じく赤い光に包まれていく。
金峰山でご来光を見るのは二度目だが、どちらも水色と青、そして朱色と、それぞれの色が溶けあった朝焼けのグラデーションが本当に美しい。
「金峰山」と書かれた山頂の立札が、空に映える。立札の後ろ、少し離れたところに八ヶ岳、もっと遠くには北アルプスの峰々が見える。
山々が、この日の太陽の誕生を祝福しているかのように思えた。

ちなみに山頂は風が強く非常に寒くて、一人で来ていた女性がガスバーナーを持参してコーヒーを飲もうとしていたが、寒すぎてなかなかお湯が沸騰せず、あきらめていた。「風が強いから、しょうがないね~」なんて皆で話していたが、考えてみるとほとんど見知らぬ人と行動を共にして、ご来光を見ているなんて私的にはなかなかレアな経験だ。

朝食を食べ、山小屋を後にしてから、その女性と私は同じコースを下山した。歩くペースがほぼ同じだったので、その人と途中の分岐から登れる瑞牆山に一緒に登頂した。金峰山を下山して、そしてそこからの登りなので、私は結構バテていた。一人だったらもういいや、と帰っていたと思う。彼女のおかげで、金峰山と瑞牆山、両座をどちらも制覇することができた。瑞牆山は、どっから登れるの、この山?という山容をしていて、彼女が某夢の国のアトラクションになぞらえて「みずがきサンダーマウンテン」と名付けていた。

バスで来ていた彼女は、最後の方は最終に間に合わない!と猛ダッシュで降りていき、私は美しい紅葉をゆっくり撮りたかったので、そこで何となく離れて解散となった。最後、小さくなっていく彼女の背中を何枚も撮らせてもらった。山に登らなければ出会わなかったし、話さなかったであろう人。

ちなみに彼女とは、登山地図アプリYAMAPでつながった。今後山でご一緒するかはわからないが、こういうご縁もあるのだな、と思った。

 

金峰山・瑞牆山(2,599m・2,230m)/奥秩父

金峰山は、奥秩父連峰の盟主。長野と山梨にまたがってそびえており、きんぷさん、もしくはきんぽうさんと呼ばれている。
山頂には金峰山のシンボル、五丈岩がそびえたっている。山全体が岩の山。瑞牆山は、そのルックスはまるで某夢の国のビッ〇サンダーマウンテンのよう。
瑞牆山荘からのコースからは、富士見平で金峰山と瑞牆山との分岐があり、両座アタックすることが可能。

≪コースタイム≫
1日目:瑞牆山荘→富士見平→砂払いの頭→千代の吹上→金峰山→金峰山小屋
歩行時間 瑞牆山荘~富士見平小屋 1時間/富士見平~金峰山山頂 5時間
歩行距離 5.56km
最大高低差 1,099m

2日目:金峰山小屋→富士見平→瑞牆山→富士見平→瑞牆山荘
歩行時間 金峰山小屋~富士見平 約3時間 富士見平~瑞牆山山頂 1時間20分
歩行距離 10km
最大高低差 1,099m

≪アクセス≫

瑞牆山(瑞牆山荘)登山口へのアクセス

〇マイカー 中央自動車道 須玉ICから約25km
〇電車 JR中央本線韮崎駅から韮崎瑞牆線で瑞牆山荘バス停で下車する。約1時間30分、2060円、1日5〜6便。
(期間運行のため、シーズンオフは増富温泉止まり。ここから歩いて3時間近くかかる)。