天国を見た/木曽駒ケ岳

 

天国を見た/木曽駒ケ岳

中央アルプス・木曽駒ケ岳に友人と出かけたのは8月。私にとって初めてのテント泊山行だった。

木曽駒ケ岳は3,000m級の山だが、標高2,600mまでロープウェイで一気に高度を稼ぐことができる。10キロ以上の荷物を初めて背負って登るのにちょうどよい、テント泊練習にもってこいの山だ。

車で行けるのは菅の台バスセンターまでで、そこからはマイカー規制のため、路線バスに乗り換え木曽駒ケ岳ロープウェイ下の駅、しらび平へ向かう。曇天の空模様ではあったが、気分は高揚していた。

だが、ロープウェイを降り立ってすぐ見られるはずの、氷河が作ったとされる美しい千畳敷カールの景色は、濃いガスに覆われていた。うーん。本で見た天国のようなあの景色はおあずけか。

登山届を書いて提出し、駒ヶ岳神社で登山の安全を祈願してから、いよいよ木曽駒ケ岳へ向けて出発した。割と急な勾配の八丁坂をひたすらジグザグ登っていく。平日だったがやはり人気の山のようで、中高年のグループが非常に多かった。その中のおじさんから「すごいザックだね!!」とすれ違いざまにばんばんザックをたたかれたのには参った。よろけて危ないのでやめていただきたい。

そのうち小雨が降り出した。ザックカバーを付けてからレインウェアを着て、再びひたすら登った。天国のようなところを楽しく登ることを思い描いていたのに、何だろうこの楽しくない感じ。やはり雨が降っていると気力が急降下していく。
それでも乗越浄土までは、ともくもく足を動かした。

乗越浄土に到着してから、雲とガスが少しずつ晴れていくのが実感できた。やがて頂上山荘に到着し、テントを設営する頃にはすっかり青空が広がっていた。時間は十分余っていたので、テントに荷物を置いて身軽になってから木曽駒ケ岳山頂に登頂した。山頂付近で充分遊んでからテントに戻り、その夜は持ち寄った酒とつまみで宴会となった。

翌朝。夜が明ける少し前、爆睡する私を友人がテント外から起こしてくれた。今思えばありがたい。冷えるので着込んで外に出ると、うっすら明るくなりかけている。テント場はちょうど東向きで、しかも八ヶ岳の峰々がくっきり見える。じっと目を凝らしていると、その八ヶ岳の向こうから太陽が顔を出し始めた。なんてことだ!ダイヤモンド八ヶ岳だ。
見ていると、太陽の光が八ヶ岳の峰から溢れてきて、そのうちあたり一面、信じられないほどの光に包まれた。
この世のものとは思えない、嘘のような光のシャワーを私たちはただひたすら浴びていた。まるで天国だ。私はそう思った。

光のシャワーはほんの数分で終わり、太陽が完全に昇り切ってからは普通の朝の陽射しとなった。
ほんのわずかな時間、あの場にいた全ての人たちは幸福に包まれていたと思う。
なんだか夢のような出来事だったが、写真を見返してみると確かにあの天国のような時間はあったのだ。
夢ではなかった。夢のようではあったけれども。

木曽駒ケ岳の山行を思い返すたび、あの光のシャワーを思い出す。
あの天国のような空気、光景を体ごと感じたいがために、私はまた山に登るのだ。

 

 

木曽駒ケ岳/中央アルプス(2,956m)

中央アルプスの最高峰。山頂の標高は高いが、ロープウェーで2612mの千畳敷駅までアクセスできるのでアルプス初心者にぴったり。
千畳敷駅を出ると目の前に広がる、氷河によって削られたとされる千畳敷カールの景色は、まるで天国のよう。

≪コースタイム≫
1日目:千畳敷カール駅→乗越浄土→宝剣山荘→木曽駒ケ岳→木曽駒ケ岳頂上山荘(テント泊)
歩行時間 2時間
歩行時間 3km
最大高低差 678m

2日目:木曽駒ケ岳頂上山荘→千畳敷カール駅
歩行時間 1時間30分
歩行時間 3km
最大高低差 678m

≪アクセス≫

〇マイカー 長野自動車道 駒ケ根IC-菅の台バスセンター駐車場-路線バスでしらび平駅-ロープウェーで千畳敷駅
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