少年のおつかい
少年は、一人でおつかいを任された。頼まれたのは唐辛子と、生の魚を3匹、ナッツを少々。
母は生まれたばかりの弟や妹たちの世話が忙しい上に、いつも手伝いに来てくれる祖母が体を壊して休んでいるので、やむなく長男に夕ごはんの買い物を頼んだ。
少年は有頂天になった。いつも憧れていた、あの列車が通る市場で買い物がしたい。
母におずおずと話してみると、あっけなく許可が下りた。とにかく夕飯の食材を調達してくれるんだったらもうなんでもいい、と半分投げやりな様子だった。
けれども、母親は少年に一つ約束をさせた。
「メークローン駅に着いたら、駅からちゃんと電話しなさい」
少年は無事駅に到着し、興奮しながら母親に電話をかけた。
「お母さん、すごい、すごいよ!さっきまでお店があったところに電車が通って、お店の人たちはぎりぎりで電車をよけるんだよ!!あと、電車が行っちゃってからまたぱたぱたってお店の屋根が元に戻っていくんだよ!」
「よかったね、無事に帰ってくるんだよ」
意気揚々と帰宅した少年は、いまだ興奮さめやらぬ様子で、母や弟妹たちに自分が見た光景について話し続けた。
列車が通るたびに屋根の傘がぱたぱたと器用に閉じられていく店たち、駅に住んでいるかのようなぼさぼさの毛並みの犬、市場で売られている新鮮な魚や肉をさばくおじさんやおばさんたちの手さばき、どーんと盛られた果物やナッツなどの独特の香りについて、などなど。
ひとしきり少年にしゃべらせて、一息ついたところで母親は尋ねた。
「で、お願いした唐辛子と、魚はどうしたんだい?」
「・・・・・・」
母親は、ため息をついた。
その日の家族の夕飯は、おかず抜きとなった。
メークローン線路市場/タイ
バンコクから西へ伸びるタイ国鉄運営のローカル線・メークローン線。現在も使用されている現役の線路。
列車が来る頻度は1時間に1本だが、そのたびにお店の傘はパタパタと閉じられ、かろうじて列車が通るスペースが生まれる。
列車が通過したあと、すぐに元の状態に戻るこの営業スタイル、日本では考えられない。タイ人の商売根性とたくましさに拍手!
Mae Klong, ムアンサムットソンクラーム サムットソンクラーム 75000 タイ
ตำบล แม่กลอง อำเภอเมืองสมุทรสงคราม สมุทรสงคราม 75000
≪アクセス≫
○バンコク・モーチットバスターミナルからロットゥー(乗合バス)で1時間半
○ウォンウェイヤイ駅(Wongwian Yai)(バンコク市内)からマハーチャイ駅(Maha Chai)まで電車、渡し船に乗り、バーンレーム駅(Ban Laem)→メークローン駅(Maeklong)
○ツアーも各種あり