旅は道づれ、二度登山/八丈富士/八丈島

 

旅は道づれ、二度登山/八丈富士/八丈島

しばらく忘れていた“島旅”という楽しみを、この旅で思い出した。

2018年・夏。山を渡り歩き、車で放浪(?)していた私は、その時まちがいなく旅人だったと思う。北アルプスの雲ノ平を4日間縦走し、下山後そのまま帰宅せずに一気に新潟へ。大地の芸術祭を楽しんでから、そのまま東北に北上して山をうろうろしようかと考えていたが、天気が下り坂だったのと、雲ノ平山行がすばらしすぎて、山はお腹いっぱいだった。2週間ほど丸々旅をするつもりだったけれど、一度仕切り直しで帰宅。まだ1週間ほどぽっかり予定が空いている。
そしてふと、「そういえば私は、島の旅も好きだった」と思い出した。
思い出してからその日のうちに、2日後の八丈島行きのチケットを予約した。(本当は青ヶ島に行きたかったのだが、帰りの船に乗れるタイミングが1日のみで、しかも就航率が50~60%とのことで、断念した)

そして到着した八丈島。羽田からたった55分であっという間だ。心理的にとても遠く感じていたが、大阪に行くのと同じような感覚で着いてしまった。(ちなみに船だと夜行で10時間かかる)
東京の島には初めて降り立った。空港近くの道路にはヤシの木が植えられていて、いかにも南国の島という雰囲気だったが、沖縄とはまた少し違う気もした。
つい最近まで散々車で旅していて運転に食傷気味だったので、この島旅は初心に返って自転車で周ることに決めた。今思えば無謀である。
灼熱地獄の中、空港から歩いてレンタカー屋に移動し、自転車を借りたい旨申し出た。対応した女性の「電動自転車の方がいいと思うよ」という助言を丁重に断り、普通のママチャリを借りた(バカ)。

改めて地図を見ると、八丈島は本当にひょっこりひょうたん島の形をしている。自転車を借りたレンタカー屋は空港からほど近い、島の中心部分に位置しており、この日はひょうたんの上部分をまわることにした。

そしてペダルをこぎ始めて20分後、早くも後悔していた。


八丈島の名物、明日葉を練りこんだパン

この頃はアルプスに登るくらい脚力も体力もそれなりにあるから、自転車で島を1周するくらいきっとたやすいだろうと思っていた。しかし、八丈島はアップダウンが激しく、正直、山に登るよりも自転車の方がずっとしんどい。レンタカー屋の女性の助言は正しかった。島民の言うことは聞くべきだ。反省。
いくつか島の観光スポットをへろへろになりながら周り、予約していた宿にようやくたどり着いた。

そこで、大阪から来たというMさんという女性と出会った。
前日からその宿に泊まっているMさんは、看護師をしていたのだが最近退職し、それを機に日本全国を旅してまわっているそうだ。今は東京の島々を渡り歩いていて、3日後青ヶ島に行く予定とのこと。今日は電動自転車を借りてぐるっと一周したが、船が出る日までまだ時間がある。そこで、我々の思惑は一致した。私は3日間通しでママチャリを借りるつもりだったが今日で即却下。明後日1日、レンタカーを借りて八丈富士に登るつもりでいた。そこで、車の運転ができないという彼女を同乗者としてスカウトした。交渉は成立。一緒に八丈富士に登ることになった。

八丈富士のふもとにあるふれあい牧場でご来光の写真を撮りたくて、明け方に宿を出発した。やはり助手席に人が乗っていると心強い。というのも、八丈島のレンタカーは道が単純すぎて必要ないと思われているのか、カーナビがない。なので一人で運転していると今どこを走っているのか確認がしづらいのだ。MさんのスマホでGoogle先生に聞きながら、ふれあい牧場にさくっとたどり着いた。

空がどんどん焼けてきて、少しずつ太陽が顔を出す。やがて牧場はまばゆいほどの光に包まれた。そんな中、海と山をバックに牛たちがのんびり草を食む光景はなかなかよいものだった。早起きしてよかった。

そして、山に登るなら朝早いうちに!ということで、我々はさっそく登り始めた。

八丈富士は、車で7合目の登山口まで行けば、山頂までは50分で到着する。延々続くコンクリートのスロープ(コンクリートかと思っていたが、なんと溶岩を利用して作られているらしい)、もしくは大股で行かないといけない石の階段で、ちょっと単調で色んな意味で疲れる。ガスがなかったら海を見ながら登ることになるので爽快なのだろうが、全然ガスが晴れないまま山頂に到着した。

八丈富士は、その名の通り富士山のような形をしている山で、本家と同じくお鉢巡りができる。だが、ガスのせいでほとんど何も見えず。見られてよかったのはかろうじて見えた弱々しいブロッケン現象だけだった。下界の空港や海はおろか、お鉢の中がどうなっているかもわからない。むむー、朝のうちの方がガスはないと期待して登っただけに、ちょっとがっかりだった。しばらく待っていたがなかなかガスが晴れないので、さくさく下山した。
日も登り、観光客が増えていたふれあい牧場で、とりあえずアイスを食べる。ふとまた八丈富士を見てみると、なんと山頂のガスが晴れているではないか。うーん、どうしよう。これでまたもう一度登ってまたガスガスだったら意味がない。でも・・・

Mさんにおそるおそる聞いてみると、「また登ってガスガスだったらそれはそれでしょうがないですね!」と満場一致で、もう一度登ることになった。
同じ日、同じ山に2度登るなんて、後にも先にもきっとないだろう。

特に普段山登りなどはしないという彼女は、「いつも仕事柄、病院内を歩きまわってるから持久力だけはあるんです~」との言葉通り、2回目の彼女の登りはマッハの速さだった。登山口から山頂まで50分かかる登りを、一気に30分で登っていた。距離的には短いとはいえ、なかなかの急登なのと、そもそも2回目の登りということで、私の方が途中息切れして休み休み登っていた。ちょっとだけ山をかじってる風でいた私は立つ瀬がなかった。私なんかよりも、彼女の方が断然山の才能がありそうだ。けれども、「何気に高所恐怖症なんですよね~」とのこと。岩場とか鎖場とかは絶対NGらしい。

ともあれ、そんなこんなで、2回目も山頂に無事到着した。今度は望み通りすっきり晴れて、お鉢や火山丘などもばっちり見られた。1回目には全く見えなかったお鉢の向こう側を歩く人の姿も見ることができた。そもそもお鉢の中はこんな風になっていたのか。ガスがあるかないかで、全然違う山に見える。同じ山とは思えなかった。しみじみ、登ってよかったと心から思った。

「お鉢、見られてよかったですね」Mさんとそう言い合いながら、下山した。当たり前だが八丈富士は島の山なので、海を見ながらの上り下りとなる。1回目は全然見られなかった海が、2回目にはばっちり見えた。タイミングが合えば、八丈空港に離着陸する飛行機を上から見ることもできるらしい。利尻岳の時も感じたが、島の山というのはなかなかおもしろい。島が山、山が島。八丈富士も、立派な島の山だった。

八丈富士を満喫した後、我々は、そのまま車で島をぐるっと一周、八丈島を観光した。ひょうたんの下部分の、滝の名所や展望台、野天温泉にも立ち寄った(ただ外から見ただけだが)夜には、近くの港にレジャーシートを持って行って、Mさんとチューハイで乾杯し、身の上話に花が咲いた。旅の途中、たまたま宿が一緒だったというだけの彼女。ここまで一緒に行動して、さらには山まで登ったなんて、めったにないことだ。旅は道づれ。そんな言葉をふと思い出した。

青ヶ島行の船が出る金曜の朝。就航率50~60%という、はっきり言って天気任せの運頼みである。朝食後、Mさんが今日は青ヶ島行の船が出るか電話で確認している。Mさんの表情がぱっと明るくなった。今日、青ヶ島への船が出るらしい!Mさんはものすごい速さで荷物をまとめ、ダッシュで宿を出て行った。よかったよかった。パワフルで元気なMさん、青ヶ島の旅も満喫することだろう。

アドレスを交換していたので、帰ってから一度だけMさんとメールの交換をした。青ヶ島の旅、地熱の天然蒸気で食す蒸し料理など、やはりとてもよかったらしい。私も一度訪れてみたいなあと思う。

少しの間、一緒に旅してくれたMさん、ありがとう。またいつか、どこかで。

八丈富士/八丈島(854m)


伊豆七島の最高峰。八丈島は瓢箪型の島で、西方にそびえる山が八丈富士で、西山と呼ばれている。ちなみに東山と呼ばれる三原山も登山が可能。
八丈富士は車で7合目まで行けるため、気軽に楽しむことができる。溶岩を利用して作られたスロープ&階段はやや急登。
ふもとにあるふれあい牧場(無料)でトイレや飲み物を利用できる。

≪コースタイム≫
登山口→西山(八丈富士)→登山口
歩行時間 登山口→山頂 50分 お鉢巡りは約45分
歩行時間 4km
最大高低差 376m

≪アクセス≫

〇八丈島まで
・空路(東京・羽田空港~八丈島空港)ANA
ANAの定期便が1日3往復就航。所要時間は片道約55分

・海路(東京・竹芝桟橋~八丈島・底土港または八重根港)東海汽船サイト
東海汽船の定期便が1日1往復就航。所要時間は片道約11時間

・空路(青ヶ島~八丈島~御蔵島~三宅島~大島~利島)東邦航空
東邦航空のヘリコプター「東京愛らんどドシャトル」が毎日6島の間を運行

・海路(八丈島・底土港~青ヶ島・三宝港)伊豆諸島開発株式会社
伊豆諸島開発の定期便「あおがしま丸」が週4往復就航し、所要時間は片道約2時間30分です。

【駐車場情報】
・ふれあい牧場から車で10分ほどのところに数台駐車可能
トイレなどはないのでふれあい牧場利用