岬からの手紙

岬からの手紙

今日もこの地にたくさんの人間たちがやってくる。
僕はその様子を上空からぐるぐる観察し、たまに近寄って彼らに話しかけてみる。
もちろん、僕の言葉は彼らのそれとは違うから、意思疎通はかなわない。けれども、人間たちが僕を見て何かを言っていることだけはわかる。
一方通行の会話に飽きたら、僕はまた羽ばたき、そして彼らの目の届かないところで羽根を休める。

なぜ人間たちに近づいているかというと、ちょっと前に気になることがあったからだ。
この岬にはポストが備え付けられていて、ここから手紙を出すことができる。ユーラシア大陸最西端とか、僕にとっては何ら意味のない区切りに感動を覚える人間は少なくないようで、この地から手紙を出したくなるらしい。ばかばかしい。
なぜ人間たちは、空と海、大地をそれぞれ切り分け、区別するのだろう。

つい先日も、ポストに投函された手紙を収集しに、郵便男がバイクでさっそうとやってきた。
が、なんとそのうちの1通がぽろっと、落っこちたのだった。僕の目の前で。

郵便男は気づかずに走り去ってしまった。

あいにくその時、ポストの周りには誰もいなかった。
おまけに風が強い日で、その手紙はひらひらと自分勝手に舞い上がっていき、ついには崖の下へと落ちて行った。

手紙というのは、紙でできているんだろう?もともとは木なんだよね。(僕って物知りでしょ。)
海に落ちたらもうそれまでだと思い、おせっかいとわかっていたけど拾い上げた。くちばしで。
案の定、落ちたときに波しぶきがかかったのか、手紙は少し濡れていて、外側の封筒が透けて中の文字がちらっと見えた。そこに書いてあった言葉は・・・
いや、やめておこう。こういうのってプライバシー侵害とか、個人情報がどうのこうのってうるさいしね。
でも僕は一応、手紙を拾い上げた責任から、誰も見ていないのを見計らって、再びその手紙をポストに入れておいたんだ。くちばしで。

だから、あの手紙が宛先人に届いたのか、気になっている。
もし届いていたなら、その人はきっとこの岬にやってくるはずだから。
手紙を出した人と受け取った人、二人がここでもし会うことができたら、僕のやったことも意味があったはずだよね。

 

 

ロカ岬/ポルトガル

草原を駆け抜ける風、140mの断崖から眼下に広がる紺碧の大西洋、春から夏にかけて咲き乱れる可憐な高山植物、かわいらしい灯台など、思わずわーー!と声が出てしまうほどの絶景スポット。地球が丸いことを実感できる。
石碑にはポルトガルの詩人、カモンイスの詩の一節「Onde a terra acaba e o mar come ca(ここに地終わり、海始まる)」が刻まれている。

Estrada do Cabo da Roca s/n, 2705-001 Colares, ポルトガル

≪アクセス≫

○リスボン・ロシオ駅からシントラ駅へ列車。シントラ駅右手のバス停からロカ岬行きのバスに乗り、35分程度。
カスカイス駅からもバスあり。Scotturb社が運行している403のバスを利用すること。

※リスボン・ロシオ駅で、ポルトガル版のスイカ(リスボン-シントラ間の鉄道&シントラでの観光バス&ロカ岬行きのバス乗り放題カード)を買っておくと便利。