王の魔法の正体

 

王の魔法の正体

やあ。俺の芸術の結晶、アルハンブラ宮殿へようこそ。

あ、もちろん俺はとっくにくたばっちまってるんだけど、この宮殿を訪れた君たちの反応が気になってね。かれこれ数百年、ずっとここに居座ってるんだ。ま、ある意味俺がここの裏の門番係ってとこさ。入場料は俺が取ってやりたいところだけど・・・まあその辺は大目に見てやる。今となっちゃ金の使い道もないしね。

この姿になって数百年、お客さんたちの目に留まって大騒ぎにならないように、これでも気を使ってるんだよ。なるべく見つからないようにうまいこと隠れてたつもりだったけど、お前さんは最初から俺の姿が見えていたみたいだな。そうか、大人よりも子どもの方がそういうのに敏感っていうもんな。

お前は誰かって?そうか、自己紹介してなかったな。

俺は、その昔えらい王様に命じられて、このアルハンブラ宮殿を設計した張本人の建築家さ。歴史上からは抹消されてるけどな。ていうかさ、この宮殿の紹介文を色んなサイトで見たけど、「王が魔法を使って完成させた」ってなんだよ。そんなわけないだろうが、王様は普通の人間さ。

まあ、そんなことを当時口にしたら最後、あの世行きのおだぶつだ。

てなわけであの宮殿を作った人間は皆口をつぐんでいたけど、あのオベリスクの模様、タイルの色使い、裁きの門やら水の庭園やら、全体の調和、ぜーんぶ俺が指揮を取ったんだよ。アルハンブラ宮殿は、俺と、俺の弟子たちのセンスと技術と血のにじむような努力の賜物ってわけさ。

王様が全部いいとこどりしちまったけどな。

ま、いいさ。王様はあの世では俺と顔を合わせるとやっぱり気まずいのか、全然会ってない。俺も、ここを訪れる人間たちを観察してるのがおもしろくて、ずっとここで暮らしている。

しかし、俺らが作った宮殿が、こんな数百年も後世まで残るなんて、想像もしてなかったよ。完成した当初は、王様のただの権力自慢のためのだと思ってたけど・・・人間ておもしろいな。

じゃあ、俺はいつでもここにいるから、また気が向いたら遊びに来いよ。

 

 

アルハンブラ宮殿/スペイン

グラナダの「赤い丘」と呼ばれる高台に建つ、スペイン・イスラム芸術の域を集めた華麗な宮殿、アルハンブラ宮殿。
アルハンブラとは「赤い城」という意味で、ナスル王朝の栄華の名残を匂わせるその美しさは、「王が魔法を使って完成させた」とも言われている。

Calle Real de la Alhambra, s/n, 18009 Granada, スペイン

≪アクセス≫

○グラナダ・ヌエバ広場からゴメス坂を上って徒歩20分
入場料:昼の部一般14ユーロ(事前に入場チケットの予約・購入がおすすめ)
https://www.alhambradegranada.org/ja/