トリコロールの洗礼
かつて雑貨やアンティークの類が好きで、旅の目的の半分くらいを占めていた。(あと半分は、写真を撮ることだ)
海外の旅の経験はそんなに多くはないのだが、3回パリを訪れたことがある。渡航回数が10数回しかないのだから、そのうち3回がフランス・パリというのはけっこう割合が高いと思う。何もわかっていないくせに、雑貨やアンティークを見るならパリ、そう信じていた。というか、パリに対して強烈なあこがれがあった。
2009年の秋、一人でフランス・パリを訪れた。宿泊先は、今で言ういわゆる民泊。日本人女性とフランス人男性のカップルが、自分たちが住んでいるマンションの一室を旅行者に貸し出していて、ネットで見つけて予約した。今思えば勇気あるなあ私。ホテルに泊まるより当然安いし、食事代を少し上乗せすればごはんも作ってくれるしで、一人旅には都合がよかった。あと、パソコンを貸してもらえるのもありがたかった。当時はスマホがなかったので、ネットで調べものができたのも大きい。
民泊させてもらったホストカップルと私(右)
ホストカップルが、初日の夜はラクレットで歓迎してくれた
パリで有名な骨董蚤の市、クリニャンクールとヴァンブへは当然足を運んだ。比較的庶民的なヴァンブでは戦利品があったが、ほとんど観光地化していてお値段も高めのクリニャンクールは何も買えなかった。が、写真はたくさん撮れた。
もっとたくさん雑貨やアンティークを愛でたい。というか買って帰りたい。
それで、パソコンを借りてパリ市内の大小のマルシェ(骨董だけでなく、生鮮食品もあった)を色々検索したところ、ちょうどパリ市内で開催中の小さなマルシェを発見した。宿からも近い。行ってみると、規模は小さいが、庶民が普通に買って帰りたくなる価格の掘り出し物がたくさんあり、私の買い物欲に火がついた。
少し生成りがかったシンプルなお皿が2ユーロ。安いのでまとめて買おうかと悩んだが、割れるかもしれないので2枚にしておいた。おもちゃみたいな石の飾りがついた指輪。さすがパリ、デザインが素敵でおもちゃの指輪だけどいくつも欲しくなる。(パリの魔法フィルターがかかっていた)トレイにさまざまなデザインの指輪がどっさり並べられていて、どれにするか迷った。真剣に検討して、2つ買う、と店のおばさんに伝えた。
ほかにも何か戦利品があったと思う。ほくほくしながらマルシェをあとにし、メトロの駅のホームで戦利品を見返そうと手元を見た瞬間、あれ?となった。
手首にぶら下がっていたはずのコンデジがない。
ストラップは手首にそのままついているが、その先のコンデジが消えている。
どうやら、マルシェに夢中だった私は、コンデジのストラップが切られてスリにあったことも気づかなかったらしい。がーん。
その日の午後はとにかくひたすらへこんでいた。夜はSNSで知り合った、日本人女性を訪ねる予定だったので宿には戻らず、パリの街をひたすら歩いた。途中ナンパっぽい感じでパリジャンが声をかけてきたが、ものすごい剣幕で返事したら恐れをなして逃げていった。その人の日本人女性のイメージを変えたかもしれない。
それにしてもマルシェで完全に油断していた私にデコピンしてやりたい。コンデジそのものより、旅先で撮った写真がすべて失われたことがショックだった。
時間になり、日本人女性が住む家を訪れた。この方も仏人男性と一緒に暮らしていて、ボネちゃんというめちゃくちゃかわいい猫を飼っていた。もともとこの猫のイラストブログをネットで見て、ブログ主のNさんとやり取りするようになり、パリで対面することになった。(余談だが、今検索してみたらボネちゃんは健在、Nさんもイラストレーターとして活動中らしい。ボネちゃん長生きだなあ・・・と思ったけど訪れたのは2009年で14年前。当時1~2歳だったら猫の寿命的には全然元気だ)
今も健在のボネちゃん
すてきな料理で出迎えてくれたNさんと、その仏人彼に、昼間私に起きた悲劇をしょんぼりしながら伝えた。そうしたら、彼がこう言ったのだ。
「Bienvenue en France.」
ようこそフランスへ。
そうか、私はフランスの洗礼を受けたのか。
ここはフランスなんだ。
フランスだからしゃーない。
その一言で、なぜか私の気持ちは一気に晴れた。
Nさんの家をあとにし、ステイ先の宿に戻り、ホストのカップルにもコンデジがスリにあったことを伝えた。翌日、二人は警察につきそってくれて、盗難被害届を提出した。さすがに込み入った説明は難しいので、仏人がいてくれて心強かった。対応してくれたのは婦人警官で、何か私に伝えてきたので通訳してもらったところ、「ケガがなくてよかったね」とのことだった。そうだよね、めるしーぼくー。
盗難証明書を発行してもらい、警察を出た。
この日はとてもいい天気で、青空がまぶしかった。
まだ旅は終わっていない。パリで過ごす残りの時間を、心から楽しもうと思った。
フランス・パリ 蚤の市(クリニャンクール/ヴァンヴ)
パリジャンには、クリニャンクールの蚤の市よりも「サント・オーエンの蚤の市」の名で親しまれているそう。
138 Av. Michelet, 93400 Saint-Ouen-sur-Seine, フランス
●開催日:12:00-00:00(月~木)12:00-02:00(金・土)11:00-22:00(日)
●地下鉄最寄り駅:メトロ13号線Garibaldi駅またはメトロ4号線Porte de Clignancourt駅
16-18 Av. Georges Lafenestre, 75014 Paris, フランス
●開催日:土曜日と日曜日の午前中
●地下鉄最寄り駅:13番線「Porte de Vanves」駅下車徒歩2分、出口「bd. Brune」