父から受け継いだヤカン/燕岳

 

父から受け継いだヤカン/燕岳

山に登るようになってから色々な山道具をそろえたが、もともと持っていた、というか私の父が持っていたのを譲り受けたものがいくつかある。ヤカンがその一つだ。父曰く、ヤカンの中にバーナー口が入れられる今では見かけないタイプだそうだ。
ただ、ヤカンというものはヤカンとしてしか使えない。普通に食器としても、お湯を沸かすヤカン替わりとしても使えるバイプレイヤーのクッカーに比べると、ヤカンは割とかさばるのでちょっとやっかいな道具だった。
だが、そのヤカンの魅力を最大限に発揮できる時が来た。友人がアウトドアコーヒーのショップを始めて、その山コーヒーのサンプルを無償で提供してくれる代わりに、どこかの山でそのコーヒーを飲んで写真を撮ってきてほしいと頼まれたのだ。

9月の半ば、北アルプスの燕岳に父のヤカンとコーヒーを持参した。テント泊だったので、冷え込んだ翌朝、父のヤカンでお湯を沸かし、コーヒーを淹れる。夫がそれらをこなす動作を、私はひたすらシャッターを切ってカメラに収めた。
ファインダー越しにヤカンを見ていると、被写体として妙に愛着を覚える自分に気づいた。傷だらけだし、デザインもへったくれもない武骨なヤカンだけど、ずっと父の山行にお供していたんだろうなあ。お前、丹沢によく連れて行ってもらってたんだって?父が剣岳に登ってカニのタテバイしていた時も、ザックの中にちんまり入ってたんだよね。
心の中でそんなことを思いながら、私は写真を撮り終えた。
撮影の後でいただいたコーヒーは、朝の冷えで少し冷めてしまったが、おいしかった。

高齢となった父は、山からはすっかり退いてしまったが、なぜか今度は娘の私が今頃になって山に夢中になっている。
実家にいたとき一緒に登ったことは1、2回ほどしかないのに、不思議なものだ。

なので、時々は、父の代わりに私がヤカンをまた山に連れて行こうと思う。時々は。(かさばるから、ね)

 

 

 

燕岳/北アルプス(2,763m)

北アルプスの女王とも呼ばれている優美な姿の燕岳(つばくろだけ)。
登山口からすぐにはじまる急登は、北アルプス3大急登と言われる合戦尾根。途中のベンチで休みながら登る。
山頂はイルカ岩や眼鏡岩など、奇岩も多く、楽しめる。

≪コースタイム≫
1日目:燕岳登山口→燕山荘(テント泊)
歩行時間 4時間50分
歩行時間 6km
最大高低差 1313m

2日目:燕山荘→燕岳登山口
歩行時間 3時間15分
歩行時間 6km
最大高低差 1313m

≪アクセス≫

〇マイカー 長野自動車道 安曇野IC-燕岳登山口周辺駐車場
〇長距離バス 東京竹橋-燕岳登山口(毎日あるぺん号

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