樹々の会話
私たちは、ずっとみんなで静かに暮らしていた。
吹雪にみまわれる冬は私たちにとっても厳しい季節だが、それは同時に我々に耐え忍ぶということを教えてくれた。やがて雪が溶けて春になり、小鳥たちがそぞろに囀り始める頃、私たちの内部にも新たなエネルギーに満ち溢れる。暖かな陽気に誘われ、私たちは自らの手足に若い葉をつける。夏が近づくにつれ、それらは私たち自身も驚くほどたくさん茂り、伸びてゆく。そうして枝葉がぐんぐん成長していくと、隣同士の距離が近くなり、お隣さんと会話ができるようになるのだ。
ここはとても静謐な場所で、私たち同士の距離は決して近くなかったが、お互いがお互いを意識しながら、静かに暮らしていた。一人の人間に発見されるまでは。
何でも彼は、ボーイスカウトとかいう青少年の心身修養訓練の道場候補地として我々のこの地を偶然発見したそうだ。彼が突然現れたとき、我々はざわついた。
ずっと静かに暮らしていたのに、人間たちにまた安息の地を奪われるのか-
だが、どうやら人間たちはここを静かな場所として定めておいてくれたようだ。ありがたい。
願わくば、騒いだりはしゃいだりなどせず、静かに黙ってここの風を感じてほしい。そうして耳を傾けたら、もしかして聴こえるかもしれない。私たちの静かな会話が。
神仙沼/北海道
ニセコ近くにある湖。日本ボーイスカウトの生みの親・下田豊松氏の一行がこの地を訪れた時に発見。
その神秘的な雰囲気が、神々や仙人の住むような場所だということから、命名された。
北海道岩内郡共和町前田
≪アクセス≫
○小沢駅から車で30分
カーナビは神仙沼レストハウス(北海道岩内郡共和町前田 )を入力